差額ベッド代の部屋別費用相場はどれくらい?支払わなくてよいケースとは?
掲載日:2022/07/12
「入院するなら個室がいい!」という方も多いことでしょう。このとき、健康保険の対象となる大部屋の入院費と、健康保険の対象にならない個室などの利用料金との差額のことを「差額ベッド代」といいます。
この差額は原則全額自己負担です。高額療養費制度の対象にもなりませんし、医療費控除の対象にもなりません。そこでこの記事では、差額ベッド代の仕組みと利用したときの自己負担額の相場、そして、差額ベッド代を支払わなくてよいケースについて解説していきます。
目次
1.差額ベッド代とは?
病院に入院をすると、6人部屋などの大部屋に入院をすることになりますが、大部屋であれば公的医療保険の対象になるため、基本的には3割負担(年齢により異なる)で済みます。
しかし、患者の入院環境の向上を図り、選択の機会を広げるものとして医療機関によっては個室などの病室が用意されており、そのかわり料金は公的医療保険で支払われる入院料とは別に、患者が負担をすることになっています。これが「差額ベッド代」です。なお、こういった個室などの病室の正式名称は「特別療養環境室」といい、差額ベッド代のことを「特別療養環境料」といいます。
なお、差額ベッド代のかかる病室に入院する場合、病院は患者かその家族の同意を得て、同意書に署名をもらう必要があります。
2.差額ベッド代がかかる病室
差額ベッド代がかかる病室(特別療養環境室)は厚生労働省の通知によって 以下の要件を満たすものと定められています。
【特別療養環境室の要件】
1. 病室の病床数は4床以下であること
2. 病室の面積は1人あたり6.4㎡以上であること
3. 病床ごとにプライバシーを守るための設備を備えていること
4. 特別の療養環境として適切な設備を有すること
少なくとも、個人用の私物の収納設備、個人用の照明、小机等及び椅子を用意することが必要です。
また、同じく厚生労働省の通知により、各病院で用意できる差額ベッド代の発生する病床の数は全体の5割以下 。国が開設する医療機関は2割以下、地方公共団体が開設する医療機関は3割以下と定められています。
平成30年度におこなわれた厚生労働省の調べによると、総病床のうち差額ベッドの占める割合は20.5%。部屋別の構成比は以下のように推移しています。
区分 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | 平成30年 |
---|---|---|---|---|
1人室 | 12.9% | 13.8% | 13.7% | 13.8% |
2人室 | 3.5% | 3.5% | 3.4% | 3.3% |
3人室 | 0.4% | 0.4% | 0.4% | 0.4% |
4人室 | 2.6% | 2.9% | 2.9% | 3.0% |
合計 | 19.4% | 20.6% | 20.5% | 20.5% |
当該医療機関における総病床数 | 1,376,066床 | 1,321,258床 | 1,301,339床 | 1,306,259床 |
3.差額ベッド代の費用
差額ベッド代は保険診療の対象外になるため、患者が自己負担をする必要があります。
以下の表から、1人部屋の場合は1日あたり7,097円の差額ベッド代がかかることが分かります。
1日あたり自己負担額 | |
---|---|
1人部屋 | 7,097円 |
2人部屋 | 3,099円 |
3人部屋 | 2,853円 |
4人部屋 | 2,514円 |
全体平均 | 6,258円 |
また、平成30年度7月1日時点での病床数の内訳は以下のようになっています。
1人室 | 2人室 | 3人室 | 4人室 | 全体 | |
---|---|---|---|---|---|
病床数 | 180,752床 | 43,265床 | 4,698床 | 38,875床 | 267,590床 |
1日あたりの差額ベッド代の全体平均は6,258円となっていまが、上の表からわかる通り、差額ベッド室は1人室の割合が多く、1人室は1日あたりの自己負担も大きいため、全体の数値を押し上げているといえます。
4.差額ベッド代を支払わなくてよい場合
差額ベッド代は、医療保険で支払う入院料とは別に患者が自己負担をすることになりますが、厚生労働書の通知によると、以下のような場合、「患者に差額ベッド代の料金を求めてはならない」とされています。
4-1.病院都合で移動した場合
病院都合で差額ベッドに入院させた場合で、実質患者の選択の余地が無い場合です。具体的には以下のようなケースです。
1. MRSA(※1)等に感染している患者で、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者。
2. 差額ベッド室以外の病室が満床で、差額ベッド室に患者を入院させた場合
(※1) MRSA…感染症の一種
4-2.治療上必要とされて移動した場合
患者本人の「治療上の必要」がある場合として、以下のようなケースがあります。
1. 緊急患者・術後患者等で病気が重篤なため安静を必要とする者。または、常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者。
2. 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
3. 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
4. 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者(※2)
5. クロイツフェルト・ヤコブ病の患者(※2)
(※2)・・・患者が通常の個室よりも、特別に設備のよい個室への入室を特に希望した場合を除く。
4-3.患者が同意をしていない場合
医療機関が患者に差額ベッド室を提供する場合、以下の項目を患者に行わなければなりません。
1. わかりやすい掲示(差額ベッド室の数、場所、料金)
2. 患者への明確かつ懇切丁寧な説明
3. 患者の同意の確認
4. 料金などを明示した文書に患者から署名をもらう
したがって、同意書に室料の記載がなかったり、患者の署名がなかったり、その他内容において不十分と認められる場合は、差額ベッド代を請求することはできません。
なお、病院都合で移動した場合や、治療上必要だから移動した場合は、該当しなくなった時点において、患者の意図に反して差額ベッド室に引き続き入院をすることがないように、改めて同意書によって患者の意思を確認するなど、その取扱いには充分配慮する必要があります。
5.差額ベッド代は医療費控除の対象になる?
自ら特別療養環境室の利用を希望した場合、かかった医療費は医療費控除の対象にはなりません。また、病院都合で特別療養環境室を利用する場合も、本来差額ベッド代は請求されない(病院が請求してはいけない)ので、そもそも医療費控除について考える必要がありません。しかし、差額ベッド代については病院側の都合もあり、トラブルにつながっているケースもあります。
5-1.対象にならない場合
原則、特別療養環境室を自ら希望して入院した場合、差額ベッド代は医療費控除の対象にはなりません。国税庁の所得税基本通達73-3にて、医療費控除の対象となるものは医師の診療の診断を受けるために直接必要なもので、かつ、通常必要なものであることが要件で、差額ベッド代は「医療費控除の対象とならない」と明確に記載されています。
5-2.対象になる場合
本人が特別療養環境室の利用を希望せず、病院都合で入院する場合は、病院は差額ベッド代を請求してはいけないということになっているため、そもそも医療費控除が発生するケースはないはずです。
しかし、実態としては、以下のようなケースが考えられます。
病院の病床がひっ迫しており、入院をする場合は、特別療養環境室の利用が必要と病院から求められるようなケースです。入院がすぐに必要ではない場合は別の病院をあたるという選択肢もありますが、どこも満室で選択の余地がない場合もあるでしょう。
このようなときには、病院側で差額ベッド代がかからないように配慮してくれるケースもありますが、中には、差額ベッド代が支払えない場合は入院を受け付けない。また、すでに入院をしている場合は退院をさせようとする医療機関もあるようです。
他にも、病院都合で特別療養環境室への入院が必要で、本人は差額ベッド代がかかることに嫌気がさしていたものの、よくわからず頼まれたので、差額ベッド代の同意書にサインをしてしまったということもあるようです。
希望しない場合は、まずは同意書にサインをしないことが大切です。特別療養環境室の利用に関して納得いかない場合は、まず管轄の厚生局に現状を相談してみましょう。
しかし、最終的に同意書にサインをしてしまった場合には、差額ベッド代を支払わなければなりません。当然、差額ベッド代に関して医療費が発生するため、医療費控除になるのでは?という可能性が出てきます。ただ、同意書にサインをしている以上、「自ら希望して」特別療養環境室を利用したと判断され、対象にならない可能性もあります。
この場合は、まず税務署や税理士に相談をしてみましょう。ただし、相談をして100%医療費控除の対象になるかはケースバイケースです。
5-3.高額療養費制度は対象外
差額ベッド代は、高額療養費制度の対象にはなりません。公的医療保険制度には、1ヶ月の窓口負担額が自己負担限度額を超えた場合、超えた分の金額が払い戻される高額療養費制度がありますが、差額ベッド代はそもそも健康保険対象外の費用であるため、高額療養費の対象にはならないという点にも注意が必要です。
6.まとめ
差額ベッド代は、公的健康保険制度の対象外なので、自ら希望した場合は全額自己負担となります。病院が患者に特別療養環境室を利用してもらうためには、患者かその家族の同意・署名が必要です。差額ベッドの自己負担の相場は1日あたり6,258円。その差額ベッド代は高額療養費制度、医療費控除ともに対象外です。病院からやむを得ず特別療養環境室の使用を求められたときは安易に同意せず、慎重に検討しましょう。
※上記は一般的な内容です。保険の種類や呼称、保障内容等は商品によって異なりますので、実際にご加入いただく際は商品詳細をご確認のうえご契約ください。
【執筆・監修】
金子 賢司 (かねこ けんじ)
- 1級FP技能士
- CFP®
- トータル・ライフ・コンサルタント(TLC)
生命保険資格の最高峰であるTLCを持ち、日本FP協会道央支部に幹事として所属。2017年以降は、確定拠出年金・生命保険・ライフプランに関するセミナーを年間50~100件開催。北海道新聞にもコラム掲載の経験があり、執筆活動にも力を入れている。
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