生命保険の相続税|税金の種類から制度、申告・納税方法まで解説
掲載日:2021/12/28

生命保険で受取る給付金にはさまざまな種類があり、中でも「死亡保険金」は相続税が関係します。受取る金額が大きいので、税金がいくらかかるか不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこでこの記事では、死亡保険金にかかる税金の種類や制度についてわかりやすくご紹介します。
シミュレーションを交えて解説するので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
1.生命保険で発生する3つの税金
まとまった死亡保険金を受取ると、相続税、所得税、贈与税のいずれかが発生します。
死亡保険金の受取りにもやはり税金がかかりますが、どの税金の課税対象になるかは「契約者」「被保険者」「受取人」が誰であるかで異なるので、注意が必要です。
【保険の税金に関連する3つの立場】
・契約者…保険を契約し、保険料を負担する人 ※
・被保険者…保険がかけられている人
・受取人…保険金や給付金などを受取る人
※契約者と保険料負担者が別のケースもあります。その際は、保険料負担者が実際の契約者とみなされ、税金の種類が変わることになります
この章では、相続税、所得税、贈与税が発生するパターンをそれぞれご紹介します。ご自身のシーンに当てはまるものをチェックしてみてくださいね。
① 相続税が発生するパターン
契約者と被保険者が同じとき、死亡保険金は「相続税」の対象になります。相続税とは、亡くなった方の財産を受取る際に発生する税金です。

上記のイラストのケースでは、夫が亡くなったことにより、夫のお金が妻または子に渡ることになるので、相続または遺贈の対象となります。
② 所得税が発生するパターン
契約者と受取人が同じ場合は、「所得税」の対象となります。所得税とは、個人の1年間の所得に対してかかる税金です。

上記のイラストのケースでは、妻の万が一のときのために夫が保険料を支払い、自分で保険金を受取る形なので、差額が夫の所得となります。
死亡保険金を1回で受取ると「一時所得扱い」、毎年分割して受取ると「雑所得扱い」になり、それぞれ所得金額の計算方法が異なります。
③ 贈与税が発生するパターン
契約者、被保険者、受取人がすべて異なる場合、「贈与税」の対象になります。贈与税とは、生きている人から財産を受取るとかかる税金です。

このケースでは、夫が支払った保険料によって発生した保険金を子が受取ります。
相続税との違いは、保険金が支払われるときに、夫は生きているという点です。つまり、給付金は夫から子への生前贈与となります。
2.生命保険の相続税額や適用される税制
保険には、税金の負担を減らしてくれる制度があります。給付金が課税対象になっても受取った保険金全額に対して税金がかかるわけではないため、安心してくださいね。
2-1.相続税で非課税が適用される制度
まずは、相続税に対して非課税が適用される制度をご紹介します。
・死亡保険金の非課税枠
死亡保険金には法定相続人1人につき500万円の非課税枠があります。
法定相続人とは、亡くなった人の財産を受取る権利がある人のこと。配偶者と血縁関係のある人のみが法定相続人になることができ、人数が多いほど非課税枠は大きくなります。

ただし法定相続人になれる養子の数には制限があるため、養子縁組をして際限なく法定相続人を増やすことはできません。
・基礎控除
相続税には基礎控除があります。課税価格が基礎控除額以下の場合、相続税は0円で、確定申告も必要ありません。
相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」。非課税枠と同様に、法定相続人が多いほど非課税枠は大きくなります。

・配偶者控除
相続税には、配偶者を対象にした配偶者控除もあります。課税対象の相続財産が1億6000万円以内、または配偶者の法定相続分までであれば、相続税が0円になる制度です。
法定相続分とは、それぞれの法定相続人が相続する割合のこと。あくまでも目安なので、法定相続人全員が納得すれば、どのような遺産の分け方をしても問題ありません。

この配偶者控除が認められるのは戸籍上の配偶者のみで、事実婚や内縁関係の配偶者は配偶者控除の適用を受けられません。また、遺産分割が完了していることと、配偶者控除によって相続税が0円になる場合でも相続税の申告をすることが適用要件となっています。
・債務控除
最後にご紹介するのが、債務控除。遺産総額から、借金や未払いの税金、葬儀費用などを差し引くことができる控除です。
2-2.所得税(一時所得)で非課税が適用される制度
所得税に対して非課税が適用される制度も見ていきましょう。
・特別控除
所得税では、特別控除として50万円を差し引くことができます。受取った保険金と支払った保険料の差額が50万円を超えなければ、税金はかかりません。
2-3.贈与税で非課税が適用される制度
続いて、贈与税に対して非課税が適用される制度を見ていきましょう。
・基礎控除
贈与税には、毎年110万円の基礎控除が使えます。110万円を超えた金額が課税の対象です。
2-4.生命保険で発生した税金の申告・納税方法
最後に、ここまででご紹介した制度を使いながら、生命保険で発生した税金を申告・納税する際のポイントをご紹介します。
・制度を把握してきちんと申告する
このように、税金には非課税枠や税額控除の制度が用意されています。中でも相続税は差し引ける金額が大きいので、税金を支払わなくて済むケースが一般的です。
しかし、相続税、所得税、贈与税とも、受取った金額が非課税分を超える場合は税金が発生するので、期限内に税務署に申告・納税をする必要があります。
税金の種類 | 申告・納付期限 | 申告先・納税地 |
---|---|---|
相続税 | 相続開始から10ヶ月以内 | 亡くなった人の住所地 |
所得税 | 翌年の2月16日~3月15日 | 受取人の住所地 |
贈与税 | 贈与のあった翌年の2月1日~3月15日 | 受取人の住所地 |
・配偶者は死亡保険金を受取らない
相続対策の一つとして、「配偶者(妻)は死亡保険金を受取らない」という方法もあります。
というのも「契約者と被保険者は夫、受取人は子」にすることで、子が受取る資金をより多くすることができる可能性があるのです。
配偶者はもともと1億6,000万円までの非課税枠があるため、配偶者の相続分がこの金額を超えないのであれば、死亡保険金の非課税枠は子どもに回した方が控除を有効に活用できます。
受取人は複数指定も可能
受取人は複数指定もできるので、子どもが複数人いる場合、兄弟・姉妹で分けるのも一つの選択です。子どもが受取る資金をより多くすることが見込めるだけでなく、遺産分割協議で揉めにくくするメリットもありますよ。
では、死亡保険金の受取り方でどれくらい税額が変わるのか、次のシミュレーションで見てみましょう。
3.生命保険の相続税額シミュレーション
最後に、次の前提条件をもとに相続税額のシミュレーションを行ってみましょう。

次の2つのケース別に相続税額を計算します。各ケースの金額を比較しながら、今後の保険金の受取り方等の参考にしてみてくださいね。
[ケース1]死亡保険金をすべて妻が受取る場合
[ケース2]死亡保険金を子2人で半分ずつ受取る場合
[ケース1]死亡保険金をすべて妻が受取った場合
まずは、死亡保険金をすべて妻が受取った場合の相続税額を【STEP1~4】の順番で計算してみましょう。
【STEP1】課税価格を算出する
■計算式
課税価格=遺産総額‐死亡保険金の非課税枠‐債務控除
●遺産総額:相続財産5,000万円+死亡保険金3,000万円=8,000万円
●死亡保険金の非課税枠:500万円×法定相続人3人=1,500万円
●債務控除:今回は計算から除外
上記から、まず課税価格は
「8,000万円‐1,500万円=6,500万円」
になります。
【STEP2】課税遺産総額を算出する
■計算式
課税遺産総額=課税価格‐基礎控除
●基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人3人=4,800万円
課税遺産総額は
「6,500万円‐4,800万円=1,700万円」
になり、非課税枠と基礎控除を合わせて6,300万円が非課税となります。
【【STEP3】法定相続分どおりに相続したとして、仮の相続税総額を算出する
(※法定相続分は、妻1/2、長女1/4、長男1/4)
■計算式
相続税額=相続額×相続税率‐控除額
●妻:1,700万円×1/2=850万円×10%=85万円
●長女:1,700万円×1/4=425万円×10%=42.5万円
●長男:1,700万円×1/4=425万円×10%=42.5万円
仮の相続税総額は
「85万円+42.5万円+42.5万円=170万円」
です。
【STEP4】相続人ごとの実際の相続税額を算出する
実際の相続割合に応じて税金も配分します。妻1人で死亡保険金を全額受取るので、非課税枠を使えるのは妻のみになります。
■計算式
相続人ごとの実際の相続税額=仮の相続税額×実際の相続割合
●妻:170万円×{4,000万円‐1,500万円)÷6,500万円}≒66万円→配偶者控除により0円に
●長女:170万円×(2,000万円÷6,500万円)≒52万円
●長男:170万円×(2,000万円÷6,500万円)≒52万円
よって、相続税は合計で104万円になります。

では、死亡保険金を子ども2人で受取る場合、金額はどのようになるのでしょうか?
[ケース2]死亡保険金を子2人で半分ずつ受取る場合
死亡保険金を長女・長男で半分ずつ受取ると、非課税枠もそれぞれ半分(750万円)ずつ使えるようになります。
相続税の計算方法は【STEP 1~3】まではケース1と同じですが、その後の【STEP4】が異なります。
【STEP4】相続人ごとの実際の相続税額を算出する
●妻:170万円×(4,000万円÷6,500万円)≒104万円→配偶者控除により0円に
●長女:170万円×{(2,000万円‐750万円)÷6,500万円}≒33万円
●長男:170万円×{(2,000万円‐750万円)÷6,500万円}≒33万円
よって、相続税の合計は66万円となります。

受取り方を変えるだけで、納税額はケース1よりも38万円も変わってきます。
もちろん、ご家庭の状況や家族構成によってさまざまな受取り方がありますが、相続で悩まれている方は今後の参考にしてみてくださいね。
4.生命保険の相続を放棄する場合は?

生命保険の相続を放棄した場合、非課税枠の変化や法定相続人としての扱いはどうなるのでしょうか。
結論としては、相続放棄をしても、死亡保険金を受取ることができます。なぜなら死亡保険金は受取人固有の財産だからです。しかし、相続放棄した人が死亡保険金を受取る場合、非課税枠は使えないので注意が必要です。
ちなみに、相続を放棄した人が相続人でなくなったとしても、法定相続人であることは変わりません。非課税枠や基礎控除の金額が変わることもないため、安心してくださいね。
5.まとめ
死亡保険金にかかる税金の種類や金額は「誰がお金を出して、誰がお金を受取るか」という、保険のかけ方で変わります。
このポイントを意識せずに保険の契約や見直しをしてしまうと、思っていた税金と異なる税金がかかってしまうこともあるため注意しましょう。
また、死亡保険金の受取人は配偶者に、と考える人が多いかもしれませんが、子どもを受取人にすることでより多くの資金を遺せる可能性があります。ぜひ一度、ご家庭に置き換えてシミュレーションしてみてくださいね。
※上記に記載の内容は2021年12月現在のものです。
【執筆・監修】

佐久間 翠(さくま みどり)
ファイナンシャルプランナー/ライター
2級FP技能士、AFP、証券外務員2種を保有。証券会社のオペレーターや企業内ファイナンシャルアドバイザーを務める。その経験を活かして、2016年からフリーライターとしてマネー系記事を中心に執筆。
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