トリプトファンを多く含む食材を摂るほかにも、日光浴をする、歩行など単調なリズムを繰り返す運動をする、腹式呼吸をする、映画などに感動して涙を流す、といったことも、セロトニンを増やすことにつながるといわれています。
なかでも大事にしたいのが朝の日光浴。生物には、一日を単位とする概日(がいじつ)リズム(サーカディアンリズム)、いわゆる体内時計が備わっています。人の場合、日の出とともに目覚めて日中に活動し、日が沈んだら体を休め、夜間は眠る、というのが健全なリズムです。この体内時計と密接な関係にあるのがセロトニンと、“睡眠ホルモン”と呼ばれることもあるメラトニンです。
セロトニンをつくるセロトニン神経は、光の刺激で活性化します。朝、日光を浴びてセロトニンが分泌されると、メラトニンの分泌は止まります。その15時間後、日中に分泌されたセロトニンを原料にして、メラトニンが再び分泌されはじめ、眠気を感じるようになるのです。つまり、セロトニンが少ないと、メラトニンの量も少なくなり、リラックスして眠りにつくことができなくなってしまいます。この体内時計のリズムが乱れると、さまざまなかたちで心身のストレスになり、自律神経の乱れにつながります。
このように大切な光の刺激ですが、通常の屋内照明では十分な刺激を得られません。JIS(日本工業規格)では、部屋の用途や作業に応じた照度(光に照らされた面の明るさの度合い、単位はルクス)の基準値を示しておりますが、それによるとキッチンやダイニングは200~500ルクス、勉強や読書は500~1,000ルクスです。これに対して、メラトニンの分泌を止めるには、1,500~2,500ルクスの明るさが必要とされます。
太陽光は、晴天であれば100,000ルクス以上になることもあり、曇りの日でも10,000ルクス、雨の日でも5,000ルクス程度あるといいます。また、セロトニン神経は可視光(目に見える光)によって活性化するため、直射日光を浴びなくとも、窓際の明るい場所で過ごすだけでも効果があります。つまり、コロナ禍で外出しにくい状況であっても、梅雨の季節でも、毎朝、起床時に窓際で過ごすことで、セロトニンを増やすことができるのです。
セロトニンとメラトニンの切り替えに必要な時間を考えると、体内時計をリセットするには、起床後すぐ、15~30分程度光を浴びることを心がけるといいでしょう。大切なのは、セロトニンを体内に貯めておくことはできないため、日光浴を毎朝の習慣にすることです。
さまざまな自制が求められるコロナ禍が続きますが、起床時の日光浴から一日を始め、食事、運動、睡眠など、規則正しい毎日を心がけて“幸せホルモン”を増やし、心身の健康を守っていきましょう。
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